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東京地方裁判所 平成7年(特わ)2740号 判決 1996年2月13日

本店所在地

東京都板橋区東新町二丁目五八番七号

有限会社鐘盛電機

(右代表者代表取締役 田森金雄)

本籍

秋田県能代市浅内字中山二〇六番地

住居

東京都板橋区桜川二丁目一七番一〇号 リバーストーン一〇四

会社役員

田森金雄

昭和二五年一一月二三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官長島裕弁護人三ツ木健益各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社鐘盛電機を罰金一五〇〇万円に、被告人田森金雄を懲役一〇月に処する。

被告人田森金雄に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社鐘盛電機(以下「被告会社」という)は、東京都板橋区東新町二丁目五八番七号に本店を置き、電線、電纜の売買等を目的とする資本金二〇〇万円の有限会社であり、被告人田森金雄(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、受取手数料の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年九月二一日から平成三年九月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四七二三万四九九八円(別紙1の1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一一月一八日、同区大山東町三五番一号所在の所轄板橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二九九万二二四五円で、これに対する法人税額が八一万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一八六六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一六九二万八八〇〇円(別紙2の1のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一六一一万四九〇〇円を免れ

第二  平成三年九月二一日から平成四年九月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五七〇六万五七八二円(別紙1の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一一月一三日、前記板橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三〇一万七三九九円で、これに対する法人税額が八三万二八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一八六六号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇六二万七四〇〇円(別紙2の2のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一九七九万四六〇〇円を免れ

第三  平成四年九月二一日から平成五年九月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六九〇〇万五四九〇円(別紙1の3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年一一月一七日、前記板橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三二八万七九五円で、これに対する法人税額が九〇万七九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一八六六号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二五一〇万六四〇〇円(別紙2の3のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額二四一九万八五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(七通)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、商品仕入高調査書、役員報酬調査書、給与手当調査書、受取手数料調査書、雑収入調査書、債券償還益調査書、貸倒引当金繰入限度超過額調査書、貸倒引当金繰入限度超過額認容調査書、事業税認定損調査書

一  山田政幸、高坂義弘、鈴木道和、国府田侯吉、中嶋薫、田森由美子、林省三の検察官に対する各供述調書

一  板橋税務署長作成の証拠品提出書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  東京法務局登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一八六六号の1)

判示第二の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一八六六号の2)

判示第三の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一八六六号の3)

(適用法令)

罰条

〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕

被告会社につき いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人につき いずれも法人税法一五九条一項

刑種の選択

被告人につき 懲役刑

併合罪の処理

被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)

被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予

被告人につき 刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、電線等を安く仕入れて販売するいわゆる「バッタ屋」であった被告会社の社長である被告人が、大手取引先の株式会社の数社から同社らの裏金づくりのために架空売上を計上して、その架空代金を同社に返還すれば、一割前後の手数料を支払う旨もちかけられて、これを承諾して実行し、これらで得た利益を被告会社が「バッタ屋」から脱却し業界内に生き残るための将来の事業資金用にと割引債券を購入するなどして蓄財し、偽りの伝票を作成するなどして、過少申告により所得を少なくみせかけ合計六〇一〇万八〇〇〇円の法人税を脱税したという事案である。

右の脱税額、通算約九五・九パーセントに達しているほ脱率の高さ、架空の取引書を作成したり、受取手数料を除外する犯行の手口、継続性などの犯行の態様からすると、その犯情は、悪質である。ただ、被告人は、競争の激しい業界の中で独力で信用を得て今日まで、真面目な市民として生活してきており、前科前歴がなく、本件を深く反省している。また、被告会社は本件に関連して、平成元年九月期から平成五年九月期までの修正申告を行い、これらに関する国税及び地方税等につき、本税、加算税、延滞税等をすべて完納しているし、本件を契機に、被告会社の顧問税理士を変えて、経理監督体制を強化し、今後、再び過ちを犯さないことを誓い、捜査に協力した状況も窺える。

当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

(求刑 被告会社・罰金二〇〇〇万円、被告人・懲役一〇月)

(裁判官 大谷吉史)

別紙1の1

修正損益計算書

<省略>

別紙1の2

修正損益計算書

<省略>

別紙1の3

修正損益計算書

<省略>

別紙2の1

ほ脱税額計算書

有限会社 鐘盛電機

<省略>

別紙2の2

有限会社 鐘盛電機

<省略>

別紙2の3

有限会社 鐘盛電機

<省略>

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